幻の一手 ― ある忘年会現場で気づいた”本物の寿司”とは
見知らぬ番号からの着信
皆さん、こんにちは。東京で出張寿司をしている鮨畑です。
昨年末の話です。
ある日の朝、私の携帯に見知らぬ番号から着信がありました。
電話に出ると、あるケータリング会社の女性の方でした。
「明後日、とある現場で職人が足りないんです。誰か派遣してもらえませんか?」
話を聞いていくうちに、なんだか面白そうだなという気持ちが湧いてきました。
これ、タイミーみたいで面白いなと笑
実際、今働いているお寿司屋さん以外の職人さんのレベルを見てみたいという興味もありましたし、提示された金額も悪くなかった。
条件は800貫、4人体制の現場。一人あたり200貫。かなり楽な現場じゃないかなと思い、軽い気持ちで参加を伝えました。
当日の朝、話が変わる
ところが、当日の朝。仕込みの準備を始めようとした時、1本のメッセージが届きました。
「大変申し訳ございませんが、本日は本来の人数(4人)に達することができませんでした。よろしくお願いいたします」
…いや、話が違うでしょう。
私は3人体制になったと思い、その分の増額を提示しました。すると先方からは、私が提示した金額より少し低い金額が返ってきました。
そしてさらに判明したのが、3人じゃなくて2人だということ。
4人の予定が2人。半分です。
これは最初に合意した金額の2倍でないと、私としては納得できません。
その旨を伝えたところ、「その金額では社内の承認が下りません」とのこと。
ですので、私はお断りのメッセージを送りました。
直接交渉
すると、先方から電話がかかってきました。
直接交渉です。
結果としては、私の希望通りの金額が通りました。
後で計算したら、1貫あたりランチ代くらい稼げる計算。正直、報酬は悪くない。いや、かなり良かったです。
でも、この現場で私(鮨畑)は「お寿司ってなんだろう」と深く考えさせられることになりました。
到着したら、すでにお寿司が完成していた
現場に着くと、想定外の光景が広がっていました。
すでに完成したお寿司がバットに並んでいたんです。
シャリ玉じゃないですよ。ネタも載った、完成品のお寿司です。
聞くと、このケータリング会社がいつも発注しているお寿司専門の会社があって、そこが事前に作っていたとのこと。しかも職人が来ない可能性を想定して、「お寿司を練習中です」という女性の方が700貫以上を準備していました。
じゃあ私(鮨畑)の仕事は何かというと…
「握ったふりをしてください」
その女性から言われたオーダーが、これでした。
「握ったふりをしてください」

具体的にはこうです。
大きな丼の中にシャリ玉を10個ほど入れて、上に布巾をかぶせる。お客様からは中身が見えません。私はそこからシャリ玉を取り出して、あたかも今握ったかのように見せて、マグロを載せる。
ちなみにそのシャリ玉、プラスチックの型枠にはめて作ったものでした。手で握ったシャリじゃない。
私はこれを心の中で「幻の一手」と呼んでいます。
一手で終わる握り。いや、握ってすらいない。
彼女は何も悪くない
その女性は何度も私に謝ってきました。
「本当に申し訳ありません」と。
彼女は一生懸命でした。「もし望むなら、私がこのシャリをほぐしましょうか?」とまで提案してくれました。型枠で固められたシャリを、私が握り直せるように。
彼女は何も悪くないんです。与えられた状況の中で、できることを必死に考えてやっていた。700貫以上を一人で準備するのは、本当に大変だったと思います。
問題は、そういう現場を作ってしまう仕組みの方なんです。
今までにないほどのトラブル現場
この日、現場は今までにないほどのトラブル続きだったそうです。
某上場企業の忘年会で、スタート時間は18時半。
でも、ケータリングの料理や機材が届いたのは19時。30分以上の遅延です。
18時半までに準備できていたのは、唯一お寿司だけ。なぜかというと、お寿司だけ別会社からの納品だったから、ケータリング本体のトラブルに巻き込まれなかったんですね。
結果、お腹を空かせたお客様がお寿司に殺到。
30分で全部なくなりました。
私の実働時間、約30分。
そして握り終わった後、お給料をもらうまで1時間半ほどずっと待機でした。

会場の隅でじっと待っていると、スタッフさんから声をかけられました。
「なんで帰らないんですか?いつも寿司職人さんはすぐ帰っちゃいますよ」
…いや、お給料まだもらってないんですよ笑
軽く事情を説明して、現金の支払いを待っていると伝え、ずっと待ち続けました。
なぜこんなに現金が届かなかったかというと、先方が何かミスをしたらしいんです。ケータリングの配送が遅延し、私の給料も遅延し、全部遅延の日でした笑
ユニフォーム問題
実はこの日、私は朝9時から本職のお寿司屋さんで仕込みをしていました。
先方から「ユニフォームはこちらで用意します」と言われていたので、仕込み着のまま、いつもの帽子をかぶって現場に向かいました。
ところが、現場に着くと…
「ユニフォーム、届きませんでした。その帽子を外して、その服装のまま握ってもらえますか?」
仕込み着ですよ?普段着というか、作業着というか。人前に立つ格好じゃない。
でも、ここで私の危機管理能力が発揮されました。
実は私、常に最悪の事態に備えて、カバンにワックスを忍ばせているんです笑
トイレに駆け込み、帽子を外し、ワックスで何とか髪型を整え、普段着のまま会場へ。
正直、恥ずかしかったです。
お客様と目を合わせることができませんでした。普段着のおじさんが、握ったふりをしてマグロを置いている。自分でも「何やってるんだろう」と思いながら。
不思議な偶然
実はこの現場、面白い偶然がありまして。
去年、この某上場企業の忘年会を、私が働いているお寿司屋さんが受注していたんです。会場も全く同じ。
つまり私(鮨畑)は、去年はそのお寿司屋さんの職人として参加し、今年はケータリング会社の職人として同じ場所に立っていたわけです。
去年はちゃんと握ったのに、今年は置くだけ。去年はユニフォームがあったのに、今年は普段着。
こんな偶然、あります?笑
報酬は良かった。でも、虚しかった。
正直に言います。
報酬は良かったです。時給換算したら、とんでもない数字になります。頑張って計算してみてください笑
でも、帰り道、なんとも言えない虚しさがありました。
お金の問題じゃないんですよね。
職人として、何も残らなかった。技術を使う場面がなかった。「お寿司を握った」という実感がゼロだった。
彼らは紳士だった
ただ、一つだけ伝えておきたいことがあります。
給料を現金でいただく際、お偉いさんのような方がわざわざ持ってきてくれました。「すみません、本当に申し訳ない」と。
あの女性も、スタッフの方も、皆さんずっと私に謝っていました。彼らがどれだけ紳士的な対応をしてくれたか、それだけはわかってほしいんです。
遅延して、ユニフォームも届かなくて、でもお寿司だけは握らずに提供できるようにフォローまで考えていた。彼らは彼らで必死だった。
結果としては、言葉を選ばなければ「最悪」だったかもしれません。でも私は、彼らのしんどい状況、気持ちが痛いほど伝わってきました。
ただ、これは商売。結果が全てなんですよね。
当たり前ですが、プロセスはお客様には関係ありません。
お寿司、舐めんなよ
…と、心の中で思いました笑
お寿司って、ネタを置くだけじゃないんですよ。
シャリを切って、手で握って、ネタとの相性を考えて、お客様の目の前で仕上げる。その一連の流れがあってこそ、「握り寿司」なんです。
プラスチックの型枠で作ったシャリ玉を、布巾で隠して、握ったふりをする。
それを「出張寿司」と呼んでいいんでしょうか?
だから、鮨畑は目の前で握ります
この経験で、改めて確信しました。
お寿司は、目の前で握るから価値がある。
鮨畑の出張寿司は、必ず私がその場でシャリから握ります。
事前に作って持っていくことはしません。プラスチックの型枠も使いません。
お客様の前で手で握り、ネタを合わせる。その過程を見ていただくことも含めて、出張寿司の醍醐味だと思っています。
そして、ちゃんとユニフォームを着ていきます笑
「幻の一手」ではなく、本物の握りをお届けする。
それが、私(鮨畑)の約束です。
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ご自宅やイベント会場で、本格的な江戸前鮨をお楽しみいただけます。
「置くだけ」じゃない、本物の握りをお届けします。
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