“しんこ”との真剣勝負〜小肌の赤ちゃんに教わる、夏の仕事〜

皆さん、こんにちは。鮨畑です。今回は、夏の風物詩ともいえる“しんこ”について書いてみたいと思います。

「しんこ」とは、小肌(コハダ)の赤ちゃんのこと。時期はだいたい初夏からお盆前くらいまで。わずか5センチぐらいですかね。
頭と尾を切り離すと3センチから4センチ弱ほどの小さな魚
で、扱える期間も短く、職人の腕が試される繊細なネタです。

わずか数センチのしんこ。指の感覚だけが頼りの世界です。

“一貫の芸術”とも言われる理由

しんこは、仕込みの時点ですでに勝負が始まっています。まずは丁寧にウロコを落とし、腹を割いて内臓を取り除き、塩で締め、酢でしめるという一連の作業。この時点で失敗すれば、もう二度と戻せない。それくらい繊細な魚です。

しかもその小ささゆえ、包丁の刃先の感覚だけが頼り。写真のように、出刃包丁の先端で一本一本の命に向き合う気持ちで捌いていきます。まさに「一貫の芸術」と呼ばれるゆえんですね。

小肌とはまったく違う、“儚さ”の味

同じ魚でも、小肌(コハダ)になるとしっかりとした脂と旨味、締めの効いた味の濃さが主役になりますが、しんこはその逆。軽くて、儚くて、でも確かに魚の“輪郭”がある。まるで夏の空気のような味わいなんです。

お客様にお出しする時には、必ず「いまだけの鮨です」と一言添えます。なぜなら、この時期を逃すと、もう一年は出会えないから。

“少しの失敗が、大きな破綻に”

しんこを握る時は、何よりもバランス。シャリの大きさ、酢の効かせ具合、塩の抜き加減、すべてが少しでもズレると、味が破綻してしまいます。

私はこのネタを握るとき、まるで茶道の一服のような感覚になります。呼吸を整え、余計な力を抜き、魚の声に耳を澄ます。そうしないと、この小さな命は“鮨”になってくれません。

お客様の反応で季節を知る

夏になると、「今年もしんこ、ある?」と聞いてくださる常連のお客様も増えてきます。こうして季節の変わり目を“鮨”で感じていただけることは、職人としてとても嬉しいことです。
握りとしてはかなり高いお鮨ではありますが、しんこを求めるお客様は必ず毎年いらっしゃいます。

夏の記憶を、一貫に込めて

鮨というのは、記憶に残る食べ物だと思います。とくに、しんこのように季節と結びついたネタは、その年、その夏の記憶そのもの。

私 鮨畑 は現在、笹塚の「鮨川」で修行をしながら、東京を拠点に出張鮨サービスや寿司握り体験を行っています。こうした旬の素材も、その日の仕入れと状態を見て、できる限りご用意しています。

「こんな魚を食べてみたい」「季節を感じるネタを出してほしい」など、どんなご要望でもまずはご相談ください。しんこのような“小さな贅沢”も、お届けできるかもしれません。

東京で旬を味わう出張鮨、職人の手仕事が光る鮨体験なら、鮨畑にお任せください!